『ライオンのおやつ』 読後感想文

 

 『ライオンのおやつ』という物語をご存じですか?
癌で余命を告げられた33歳の女性が過ごす2ヶ月あまりの物語。
最期の日々を、瀬戸内の島のホスピスで生きることを主人公は選択します。

 ホスピスの名前は「ライオンの家」
そこでは、毎週日曜日に、くじで選ばれた入所者さんの想い出のおやつが皆にふるまわれます。
自分がリクエストしたおやつが、生きている間に選ばれるかわからない。
たとえ選ばれたとしても、もう食べる力が残っていないかもしれない。
そんな、おやつは、入所者さんのそれぞれの人生や人となりを現し、束の間、皆で互いの人生を共有しつつ、緩やかにつながれる大切なものとなっています。
また、死を間近にして意識が不鮮明になり、日にちの感覚を失いつつある入所さんたちにとって、おやつの時間は時を刻む大切なものとなっています。

 瀬戸内の、穏やかな海と気候にシンクロするように、ライオンの家の人たちと島の人たちとの優しくてあたたかい交流が描かれます。
死とは何か?
生きるとは何か?
そして、最期をどう過ごすのかという問いに優しく語りかけてくれる本でした。

 私が最初にこの物語を知ったのは、NHKのドラマでした。
夜の一気見放送というのですかね。
寝ようと思っていたら、ちょうどドラマの1話目が始まりました。
8話くらいあったと思うのですが、夜を通して最後まで見てしまいました。
主人公の雫さんは、治療を頑張れば元の生活に戻れると信じていました。
ところがある時、医師から、もうできる治療が無いこと、そして余命を告げられるのですね。
辛い治療をして得るものはなく、体を傷つけて寿命まで縮めてしまったかもしれない。
一人暮らしの雫さんは、治療費と生活費を捻出するためにスーパーの安いパンを食べ…
そんな自分がバカバカしくて情けなくて、家の物にあたりちらし、壊し、まさに自暴自棄な状態となります。
どんなにか悲しくて絶望しただろうと、私は胸がしめつけられました。

 その後、雫さんは仕事を辞めて、一人暮らしのアパートも引き払い、少しの荷物とともに瀬戸内の島のホスピスに向かいます。
雫さんは、こう言います。
「明日が来ることを、当たり前に信じられることは、本当はとても幸せなことなんだなぁ、」と。
癌を患った経験をお持ちの方なら、誰しも共感できる言葉ではないでしょうか?
ライオンの家の施設長?オーナー?は、メイド服を着た、長いお下げ髪のマドンナという女性です。
この方は、哲学的でもあり、スピリチュアル的でもあり、宗教的でもあり、チャプレンのような役割を担っていました。
そんなマドンナさんと雫さんの対話も、この物語の読みどころでした。
死生観なども語られるのですが、
「生まれることと亡くなることは、ある意味で背中合わせ」
「こちら側は出口でも、向こう側から見れば、入口になります。きっと、生も死も大きな意味では同じなのでしょう。私たちは、ぐるぐると姿を変えて、ただ回っているだけですから」
と、輪廻転生と思しき言葉がマドンナさんから語りかけられます。
この言葉は私の心に深く沁みていきました。

 死にゆく人の魂が体から抜けていく描写、亡くなったばかりの人が光となって、縁のある人たちのもとへ、風のように訪ねまわる描写が、とてもリアルに綴られていました。
作者は死を体験して知っているかのような、そんな訳はないのですが、本を読み進むにつれて、作者の方にも俄然興味が湧きました。

 そう言えば…ドラマと本の違いが少しありました。
ドラマのほうが、人々の交流が多く描かれていたかな。
ぶどう畑の青年と雫さんとのエピソードは、本のほうが、ずっとずっと良かったです。
ドラマは現実的すぎたかなと。
だって、レモン島とライオンの家は、現世とあの世をつなぐ中間地点のようなところで、旅立ちを待つ人たちのプラットホームのようなところだと感じたので。
もう、失恋の苦しみは、描かなくて良かったんじゃないの?と思ったのですね。

 マドンナは亡くなった人へ「良い旅を!」という言葉を贈ります。
死は魂の新しいステージの始まりを意味すると信じているのです。
一気に読み終えました。
自分がこの先、余命を宣告される時が来たなら、ライオンの家のような何にも縛られず、自分らしくいられて、穏やかに苦しまず、死を迎えられる場所に出会えるでしょうか。
それは、自分の家であっても、病院であっても、ホスピスであっても良いのです。
自分にとってのライオンの家に出会いたいと思いました。

 自分自身の死を意識するような病気になった方や、大切な人に先立たれて悲しみのなかにいる方々に、せひ読んでいただきたい一冊でした。
まとまりのない読後感想文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

おことわり
ブログ中の青字斜線の部分は、本からの引用となります。
小川糸 (2019)ライオンのおやつ ポプラ社

試し読みもできるサイトはこちら ☟

NHKドラマのサイトはこちら ☟

2022.3.5







コメント