読後感想文『がんと一緒にゆっくりと あらゆる療法をさまよって』

 
 著者の絵門ゆう子さんは、池田裕子という名前で、NHKアナウンサーとしてテレビに出演されていました。
私は、当時、よくこの方のニュース番組を見ていまして、いまだに、お顔も声も記憶に残っています。
その方が、私と同じ乳癌に罹っていたのかと、図書館の書架でこの本が目に留まり、驚きとともに手に取りました。

 絵門さんは、2000年10月に癌の告知を受けました。
それから2001年12月まで、西洋医学以外の自然療法や民間療法で、まさに副題にあるように、あらゆる療法をさまよって治癒を目指します。
しかし、告知から1年2ヶ月後、首の骨に転移し骨折したことなどにより、ついに病院での治療を受け入れ入院します。
小康状態を得て、退院後、癌との関りをありのままに、多くの人に伝えたい、知ってほしいと、この本を執筆することになります。

 放射線が体に悪影響を与えると聞けば、レントゲン検査さえも拒絶。
なぜ、これほどまでに、西洋医学を怖がり、排除するようになってしまったのか。
それは、絵門さんの著書『母への詫び状』に詳しく書かれているようです。
お母様が癌で闘病されていた時の経験に由来し、西洋医学は悪である、という思いに至ったようです。
その強い思いを裏返すがごとく、自然療法や民間療法へ傾倒していくのです。
薦められるままに、片っ端から試していく姿勢は、驚くほどはっきりと、貫かれていました。

 1年2ヶ月、絵門さんが試されたものを一部、本から抜き出してみます。
食事療法は、最初は、断食や玄米・菜食を実施し、途中から、民間療法の先生に勧められて、肉・卵・牛乳・チーズをたくさん摂る食事に切り替えました。
健康食品には、大変お金をかけたと書いてありました。
それから、癌治しグッズと称する高額な品々。
それらは、宇宙エネルギーを取り込める布団であったり、ピラミッドパワーを作るステンレスのパイプであったり、波動を出すマットであったり…
民間療法は、草の粉を貼って体の膿(癌)を出すもの、手をつうじて気を入れる気功、オーリングテスト、マイクロ波。

私が初めて聞くものばかり、次から次へと紹介されていました。
私自身は、お金をかけたくないということもあり、保険診療の効く標準治療を、それも、必要最小限、受けようというスタンスでいます。
できるだけ、癌治療の時間を少なくし、日常生活から癌患者である自分を消したいという意識が働いています。
そんな私とは、真逆のスタンスをとる絵門さんの、癌を治そうと全てを動員して、生活の全てをかける生き方に、ただただ圧倒されました。

 この本が特徴的だったのは、これは良いから薦めたいとか、これはインチキだとか、そういう書き方がされていないところでした。
ひとつひとつ、自分が取り入れたものを紹介しながら、おかしなところはおかしいと言い、自分にはここが良かったと言い、人に薦めるでもなく、全否定するでもなく、フラットな姿勢で綴られていました。

癌にかかる人が百人いれば百様だと言い、何がその人に合うかわからないから、とりあえず私の経験したことを知らせるね、各人、自由に自分で選択してほしいというようなメッセージが私には伝わってきました。
絵門さんの人を思う優しい気持ちが文章から溢れていました。

 自然治癒力と、それを支える西洋医学以外のあらゆる療法によって、癌を退縮させることを目標に、絵門さんは、癌に良いと思うものを取り入れ、信じ、実行していきました。
一度は、民間療法の先生たちに、癌は治ったと告げられるものの、首に痛みが出始め、それが日に日に増していきます。

 絵門さんは、主治医を持たないことの不安や、民間療法で一緒にがんばってきた仲間たちが亡くなっていくことの怖さを綴ります。
また、自身が受けてきた療法の矛盾点や、統計的データがないことに疑問を持ち始めます。

 告知から1年2ヶ月。
首に激痛が走り、肺に水が溜まって息苦しくなり、聖路加病院の門をくぐります。
ここからは、ほぼ実名で本は綴られていくのですが、私もYouTubeで講演会のお話を伺ったことのある中村清吾医師も登場します。
なぜ、ここから実名なのか。
それは、絵門さんが実名で書かれた方たちに、全幅の信頼を寄せていた証ではないかと感じました。
それ以前の部分は、施設名も所在地もぼやかしてわからないように書いているのはなぜなのか。
それは、施設やそれに携わる方たち、そこを信じて頼ってくる方たちが非難されることなどないように守ろうとしたのではないでしょうか。
他者を尊重する絵門さんらしさを、そこに感じました。

 自ら選択し、信じて行い、決して振り返らず、前を向き続けました。
騙されたなどと恨み言のひとつも言わず、そんな絵門さんの生き方、癌との向き合いかたに、心を動かされました。

 民間療法に対しては、癌患者へのアプローチの仕方や、結果についての統計的な開示が必要ではないかと。
また、西洋医学(病院医療)に対しては、統合医療の推進や、パターナリズムの改善が必要ではないかと書かれていました。

 この本を読んで良かった。
私の知らない癌治療の世界を知ることができました。
取り入れてやってみようということではありませんが、知識の引き出しを多く持つことは有用です。
世界が広がれば、自分の立ち位置をより正確に把握することもできます。

絵門さんが経験したことを、ありのままに書いてくださったことに感謝して、この本を閉じたいと思います。
ご興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
それでは、また。
お読みいただきまして、ありがとうございました。

2021.12.2

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