いろんな意味で目指せ!80-20

 
 先日、歯の定期検診に行ってきました。
結果は良好で、追加で治療する箇所もなく、クリーニングをしてもらって帰ってきました。
今でこそ、きちんと通っていますが、20代前半までは、歯医者が大嫌いで、何かと自分に口実をつけては、治療を後回しにしていました。

出会いは人を変える

 23歳で、初めての転職を経験した私は、出版関係の仕事につきました。
締め切りに追われる仕事であり、朝は6時過ぎに家を出て、終電で帰宅する日が続きました。
その時、寝不足は、自分の弱いところを直撃する、ということを、身をもって理解しました。
私の場合は、口の中でした。
奥歯が数本なくなり、力を入れて嚙むことができなくなりました。
さすがに、歯医者へ行く気持ちになりましたが、今度は、行く時間がとれませんでした。
数ヶ月、めん類ばかり、飲み込んで食べて、体重が減っていきました。

 そんな初夏のある日、私を変えてくれる、素晴らしい人との出会いがありました。
中学・高校と一緒だった友人が、結婚することになり、私は招待状をいただきました。
お相手は歯科医師、場所はホテルニューオータニ。
私は、受付を仰せつかりました。

この年は、私の友人たちが、相次いで結婚した年でした。
ひと月に3回、お呼ばれするなんてこともありました。
祝福する気持ちはあれど、ふとごろ具合の寂しさは辛く、また、自分の身の上と比べて、卑屈になったりして、歯だけじゃなく、メンタルもやられていました。

 披露宴でのフランス料理のフルコース、ステーキはもちろん、フレッシュサラダさえも、食べることはできず、唯一、口にしたのは、冷製スープのジュレでした。
2次会は、ホテルのバーでした。
とても雰囲気のよいところで、おどおどしていたら、上座から私を呼ぶ人がいました。

40代くらいの男性で、私が隣へ座ると、その方は、開口一番「何も食べていなかったでしょ。どうしてなの?」と。
私は、正直に、歯が悪くて食べられなかった、と答えました。
すると、その方は、私の手首をつかんで「ちょっと、こっち来て」と、照明のある真下のシートに私を連れて行きました。
そして「口、あけて、見せて」と、言うのです。
びっくりしましたが、実のところ、ものすごく困っていたので、見ていただきました。
業務外で専門家の方が、こんなことをされて大丈夫なのか、と心配になる一方で、天の助けだとも思いました。
しばらくして、その方が「これでは、食べられないね。土曜の午後、来られる?」と言い、名刺を出して渡してくれました。
友人が勤務していた歯科医院の副院長でした。

 翌週の土曜日から、午後、長いときは4~5時間、特別待遇で治療してくださって、半年後、私の口の中の大工事は終了しました。
初日は、何時間もかけて、歯についてのレクチャーと、歯みがきの実践を学ばせてもらいました。
残っている歯を、とにかく残して、使えるようにしてくださいました。
もともと、親知らずはなく、永久歯も1本少なかった私の歯は、治療後、24本残りました。
この出会いがあって、私の、歯に対する認識は、大きく変わりました。

歯医者さんは人生のパートナー

 結婚後、歯の治療難民になってはいけないと、移り住んだ地で、恩師の考えに近い歯科医院を探しました。
そこが、先日、歯科検診を受けた歯科医院です。

ここへ通いだしてから、25年以上になります。
その間、奥歯が2本ダメになりまして、インプラントを2本入れました。
インプラントを入れる際「半年ごとの定期検診はさぼりません」と誓約書を書いたので、この先、ずっと通い続けることは確定です。
その約束がなくても、20代で改心した私はさぼりません。
癌の治療を良好に続けていくためにも、きちんと食べられること、口の中を管理していくことが大切だと思うからです。
歯医者さんは「人生のパートナー」といっても過言ではないくらいに思っています。

 歯科衛生士さんとの雑談のなかで、80-20の話題になりました。
何やら暗号のような、この「80-20」は、「80歳になっても20本以上の歯を保とう」という運動のことです。

私の住んでいる自治体では、毎年、文化会館のようなところで、表彰式があるそうで、結構な記念品もいただけるようなのです。
タダでもらえるものは、何でも欲しい貪欲なスズメは、俄然、80-20に興味が湧いてきました。

どうやって、自治体は、対象者を把握するのかしら?
気になって歯科衛生士さんに質問してみました。
すると、毎年決まった時期に、自治体から各歯科医院に、対象者がいるか、お尋ねがくるそうです。
歯科医院からの申告があって、その後、本人のもとに招待状が届く仕組みのようです。
それだと、歯が丈夫すぎて、歯医者に行かない80歳は、選に漏れてしまうってことだから、もし、そんな強者さんがいらっしゃったら、とりあえず、歯科医院とつながっておいたほうが良いと思いました。

まぁ、でも、これ、80歳も、20本も、高く険しい山ですね。
癌になる以前の私は、80歳なんて気にしていなかったけれど、今は、20本より、80歳のほうが、はるかに難関だと感じます。

「スズメさんは、いつもきれいに磨けているし、今回、歯石もなかったし、いけますよ~ 80-20」
なんて、うれしいことを言ってくださいました。
歯医者さんの診察も終わって、部屋を出るとき、「スズメさんの歯は、私たちが守りますから、安心してください」なんて、夫にも言われたことがない、頼もしい言葉をいただきました。
そして、忙しいなか、歯医者さんと衛生士さんは「また来てくださいね。待ってますよ~」と満面の笑みで、送り出してくださいました。

 半年前の歯科検診では、乳癌に罹ったことをお伝えして、先生は驚かれていました。
でも、今回の診察では、一度も、癌の話題は出さずに、いつもと同じように明るく接してくださって、あれは、先生方の深い思いやりだったのではないかと、帰り道、ふっと感じました。
この先、乳癌の治療で、厳しい状況になったとしても、ここに強い援軍がいると思ったら、明るい気分になれました。

22年後、もし、80-20表彰の制度が残っていたとして
もし、20本の歯が残っていたとして
そして、もし、80歳まで、生きられたとしたら

表彰式の会場で、きっと、大泣きしていると思います、私。

 今日は、とりとめのない雑談で失礼しました。
最後まで、お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
2021.11.17

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